本学会について

会長あいさつ

ご挨拶

日本社会科教育学会
会長 大澤克美

2017年~2018年に告示された小学校・中学校・高等学校の学習指導要領の冒頭に、それらが各学校や家庭、地域で幅広く共有され活用される「学びの地図」となるための課題が示されました。具体的には、①「何ができるようになるか」②「何を学ぶか」③「どのように学ぶか」④「子供一人一人の発達をどのように支援するか」⑤「何が身に付いたか」⑥「実施するために何が必要か」の6項目が挙げられています。

教科等の枠を越えた課題ですが、地歴科・公民科を含む社会科教育の実践及び研究においても長く問われ続けてきた課題であろうと思います。その中で、項目①「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)は、②以降の項目を規定する鍵となるということに留まらず、多様な子どもたちが他者や社会と関わりつつコンピテンシーを育み、よりよい未来に向け何ができるかを重視する『OECDラーニング・コンパス2030』との関連からも注目したい項目となっています。今、①をどのように読み解くかは「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」ため、各教科・領域等で改めて問い直される課題となっているのではないでしょうか。

まさに「よりよい社会を創る」中核ともいえる社会科教育は、これまでも長く①を問い続けてきたといえるでしょう。ただ、社会の変化が多様化、急速化するにつれ、ともすると社会の変化に対応するための学力をいかに育成するかが重視されてきたのではないかとも感じています。必ずしもそれが問題であったとはいえませんが、求められる知識・理解や思考力・表現力等について「何を学んだか」が評価や考察の主たる対象となり、例えば学習者の主体性や社会性、自己有用感などの自信や学ぶ意味・楽しさ等々が、二次的な扱いになることもあったのではないかと思います。

しかしながら、「よい社会を創る」ため「何ができるようになるか」では、社会の変化に対応した学びにとどまらず、着目した社会的な事象、問題に対して、私はどう判断し何をしたいか、私とあなたは何をすべきか、私たちはどのような社会を創りたいのかなど、一層主体的で協働的な学びが期待されるはずです。そこでは事実の追究に基づき判断や意見を議論し、仮に一致や同意は難しくとも自他への理解を深め、自己の尊厳や他者の尊重といった意識を育むことを可能にするような学びが期待されるのではないでしょうか。これまで行われてきた社会科教育の理論研究、実践研究には、そうした学びへの多様な示唆や知見が数多く蓄積されていると考えます。

本学会では、これまで積み重ねられてきた活発な研究活動を踏まえつつ、今後も学会誌や研究大会及び研究会の充実に努めると共に、第3版となる『社会科教育事典』の編纂を引き継いでいくことから、社会科教育をめぐる状況や新たな知見について議論する機会や場をつくり、理論研究及び実践研究の更なる発展を図っていきたいと考えます。そこでは特に新学習指導要領に基づく授業理論の開発と授業実践の検証等に関する研究成果を広く会員に発信し、新たな研究に繋げていけるよう努めます。また、国際交流については、ここ数年に渡り度重なるコロナ禍により大きな制約を受けましたが、状況を見据えながらこれからの国際交流の在り方について検討を進めることが必要になるでしょう。こうした学会活動を通じて共有された情報や知見を、今後の教員養成に還元していくことも本学会の重要な役割であると考えます。

引き続き学会活動への会員の皆様のご協力と積極的な参加をお願いするとともに、教員の皆さんや学生・院生の皆さん、社会の様々な領域や職種で社会科教育に関心を持つ皆さんの入会を歓迎いたします。

ページトップへ